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「はぁ、はぁっ!」
島原の薄暗い裏道を、一人の女性が走っていた。
派手ではないが、着ている着物の高価さから見て、ただの街娘ではないと分かる。
「鈴!」
走る女の目に、誰よりも逢いたかった男性の姿が見えた。
「俊助はん!」
女は勢いよく、男性の胸の中へ飛び込んだ。
「鈴……」
優しい声で男性は女性の名前を呼び、強く抱き締めた。
暗い路地裏で抱きあう二人を月だけが見ていた。
そして、少ししてから男性は女性を離した。
「鈴。時間がない。……本当にいいんだな?」
「えぇ」
女性と男性の瞳には強い決意が表れていた。
この二人は島原で出逢い、恋に落ちたのだ。
しかし、島原の女を妻にするには多額の身請け金が必要とされる。
そんな金を用意出来ない二人は駆け落ちする事を決め、今まさに逃げようとしているのだ。
もちろん、そんな行動はこの島原で許される事ではない。
誰かに見付かったら、二人共ただでは済まない。
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