序章

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ふわりと、梅の香り。 (もう春か) 襖を開けっ放しにしながら自室で詩作に耽っていた晋作は、風に乗って運ばれてきた梅の香りに思わず口元を綻ばせた。 筆を置き、文机の前から立ち上がり縁側に向かう。 縁側に面した庭には梅の花が花を咲かせている。 そして、その甘やかな香りに誘われた様に、一羽の鶯が枝に止まり美しい歌声を響かせる。 晋作は梅が好きだった。 春一番に咲き誇り、甘い香を漂わせる。 亡き師の遺志を継ぎ、攘夷に身を投じる晋作にとって、梅の花を愛でる時が最も心安らぐ瞬間だった。
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