序章

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 精一杯の力で手と足を動かし、なんとか目的の部屋に辿り着く。  歩いた距離はほんの数メートルなのだが、遠い道のりのように感じた。  扉を開けようとすると、レディを待ち構えていたかのように声が聞こえてくる。  見ると、扉には僅かに隙間があった。 「君の中にいる魔物の事だが」  隙間から声が漏れている。聞き覚えのない声だったので、レディは部屋に入るのを躊躇った。もし聞き覚えのある声が話していたのなら、レディは迷うことなく彼のお見舞いができただろう。  だが人生経験を豊富に積んできたかのような深みのあるその声のせいで、レディは動けなくなってしまった。  部屋に入らなくても、部屋の中はその声の主が放つ緊迫した空気に支配されていることは容易に察した。
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