終章

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「主文 被告人を懲役一年に処する。 この裁判確定の日から、その刑の執行を三年間猶予する」 死体遺棄罪では時効が成立していた為争われなかったが、検察の殺人罪求刑に対し弁護側は無罪を主張。 被告人桜木良江は、自らナイフを刺した息子修平が苦しんでいるのを救済する為にナイフを抜き取っただけであり、修平はあくまでも自殺であるとした。 それに対し、検察側は証人として良江本人を証言台に立たせ、ナイフを引き抜けば修平が死ぬことを分かっていながら、苦しみを見ていられないとの思いからナイフを引き抜いたと証言させた。 裁判官は判決理由を、桜木修平は自分が殺害した妻綾子の後を追わせてくれと被告人に懇願していたことから、修平の自殺を助けた同意殺人に当たるとした上で、苦しむ息子を楽にさせたいと思う母親の気持ちは十分に情状に価するとして、執行猶予付きの温情判決を下した。 判決を聞いた良江は裁判官に「ありがとうございました」と頭を下げると、溢れる涙をハンカチで押さえていた。 この事件はテレビなどのメディアに取り上げられ騒がれたにも関わらず、桜木良江の判決が下ったニュースはテレビで報道されることはなく、新聞の片隅に小さく載っただけであった。
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