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昭和十九年、太平洋戦争における日本の戦況は芳しくありませんでした。
私には歳の離れた兄が二人おりましたが、長兄鉄雄は戦争が始まるとすぐに、下の兄歳蔵も翌年に出征し、桜木の家に残った子供は私一人、当時まだ十歳でした。
父は、私が物心つく前に亡くなっていた為、私は父親のことをあまり覚えていません。
桜木家は短命血筋なのか、祖父母も早く亡くなっており、我が家には太平洋戦争が始まる前から母と三人の子供達しか残っていませんでした。
長兄が父親代りであり、母も長兄を跡取りとして大変頼りにしておりましたが、その頼りの長兄、そして次男までが出征してしまうと、広い家には母と私の二人だけが残されました。
桜木の家は所謂土地持ちで、地代や借家の上がりと田畠を貸している小作から米や野菜の提供があったため、物のない戦時中とは言え、食べる物がない悲惨な状態には陥らずに過ごせておりました。
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