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「お茶でも飲みながら聞きましょうかね」
母がそう言いながらお茶を煎れ始めましたが、誰もが無言で座卓を見つめています。
急須からお茶を注ぐ音だけが、こぽこぽと小さく主張をしていました。
全員の前にお茶が配られると、山上がやっと重い口を開きました。
「あっしがこの家にお世話になりまして、早いものでもう三十年になります。
大旦那様、若旦那様と相次いで亡くなられ、先の戦争ではお二人の息子さん達まで亡くされてしまった……。
この桜木家はどうなるのかと、正直心配しておりましたが、奥さんは本当に良くやって来られました。
物のない戦時中でも知人のお子さんを預かったり、困っている人を助ける心を失わない奥さんに、この与吉は感服しております。
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