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母の故郷、東京……
母の思い出がたくさん詰まった愛する東京……
しかし、この日の約束は結局叶うことはありませんでした……。
半年後。
私と辰彦の祝言は、自宅で挙げられました。
近所の人や学校の人達が集まった地味な結婚式です。
白無垢も自宅で着付けてもらいました。
母は私の唇に紅を差しながら、涙を滲ませていました。
私は婿取りですから、外へお嫁に出る訳ではありません。
けれど、女手一つで育ててきた母の胸には様々な思い出が去来したことでしょう。
自宅の鏡台の前で、私は紅筆を持つ母の横顔を見つめていました。
化粧を終えた私は白無垢姿で仏壇の前に座り、亡くなった父と二人の兄、先祖の御霊に報告をしました。
現代の結婚式のような派手さはありませんでしたが、あの頃の自宅祝言は現代にはない厳かさがあったと思います。
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