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息子の修平は父に倣って大学で勉強する為に、東京で一人暮らしを始めていました。
辰彦が隣町の学校に異動になった頃のことです。
昔から付き合いのある神田さんから電話が入りました。
神田さんとは親の代からの付き合いで、桜木の土地や借家の管理を頼んでいました。
ですから、姫無村の管理も必然的に神田不動産に任せていたのです。
その神田さんから姫無村の家屋のことで話があるとのことでした。
姫無村のことなら辰彦に聞いて貰った方がいいだろうと、私は電話を辰彦に代わりました。
電話が終わった辰彦にその内容を聞くと、義信叔父が使用していた家屋の傷みが激しいので、安全の為にも取り壊した方がいいと言われたのだそうです。
「叔父の家は、あのままになっているんだ。
今更必要な物などないはずだが、取り壊すに当たって残っている荷物を確認してくるよ。
もしかしたら、古い写真くらいは出てくるかもしれない」
辰彦は義信叔父が首の頚動脈を切って自殺した家を、壊す前に検めてくると言うのです。
血痕の染み付いた畳などは外してありますから、当時の悲惨な様子は残ってはいません。
けれど、その家にはあまり入りたいとは思えませんでした。
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