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車が姫無村に着くと、道順として来家の本家を通るので、そちらを覗いてみることにしました。
日の長い季節とは言え、着いた時刻になると流石に薄暗くなっています。
久しぶりに見た来家の家は、長い年月が経っているにも拘わらず、威厳を保つことを忘れない武将のように堂々とした造りのままでした。
「この家は建物としての価値があると思いまして、管理しているうちの方で定期的に風を入れたり、簡単な埃払いをしています。
造りの良い家は年月と共に、より風格を増してくるから不思議なものですな」
そう言いながら神田さんが家の様子を調べて回っています。
私も後を着いて歩きましたが、玄関前を回り込んだ処で、薄暗くなった庭に植えられた沙羅の木に目が止まりました。
白い花首が、こちらを見ているように並んでいます。
周りが薄暗いのに、白い花だけが、ぼうっと浮かび上がっているように見えました。
「どうやら、先生はここには来ていないようですよ」
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