そいつはやって来た。

2/8
前へ
/8ページ
次へ
大分涼しくなってきた秋のある日。島の端にある御堂に腰掛け、ギターを弾いている女の子がいた。名前はヨーコという。 ヘッドにあるグレコのインレイを黒のマジックペンで潰し、白のマジックでGibsonと書こうとしたが、Gibsonのスペルが分からずに片仮名でギブソンと書いたレスポールを弾いていた。 「あー、いい加減、弦替えてーんじゃいや、錆びて玉ねぎみてーな匂いがしよるが、スライドするたびに指擦りむきよる」 訳(ああ、そろそろ弦を替えたいわ、玉ねぎみたいな匂いがしてるもの、それにスライドするたびに指を擦りむくわ) ……訳しても、品がよくないね。 隣に座る、のら猫のブチが呆れた目をしている。 公民館からパクった拡声器を改造したアンプに、シールドとエフェクターを繋ぎ、ジャカジャカとビートルズのアイソーハースターティングゼアーを弾きだす。 毎日毎日、こんなことばかりやっては暇を潰している。 「おもろいこと無いんかね、ブチさんよ」 本土へは、橋を二つ渡り、さらにそこからバスか高速船に乗ってじゃないとたどり着かないような田舎の島なので、面白いことなど無いのは分かってた。 それでも、こうして何かやってる人間は、まだ面白いことをしてる方だ。無論、理解者などいないが…。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加