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今更ながら、雨が降ってきた。
鉛色の雲から落ちてくる雫はすぐに激しさは増し、少年を打ちつける。
少年は、顎が砕けそうなほど歯を食いしばった。遅すぎる雨だと、どこにいるかも分からない神様に向かって糾弾する。それは、駆けつけるのが遅すぎた自分への八つ当たりに過ぎない。
雨は濡らす。
少年を。そこらにゴミみたいに転がっている人間だったものを。焼き尽くされて柱すら残っていない家屋を。少年の視界の先にいる──彼以外の生存者を。
ろくに動けない四肢に力を込め、少年は地面を這って進んでいった。生存者──泥だらけで横たわり、気絶している少女に近づいていく。
少年は彼女を抱き寄せて、震える唇を動かした。
「アリサ……」
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