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入学式は講堂で行われるらしい。入り口で受け取った地図を標に、少年は歩き出す。特に方向音痴でもないし、一定の間隔で上級生らしき人達もいたので迷うことはなかった。
辺りを見渡せば同じ新入生が何人も目に入る。頭髪も瞳も肌も色は様々だが、誰もが希望に満ちた明るい表情をしていた。それは少年とて例外ではない。
黒い制服を纏う人の流れは、俯瞰すれば蟻の行列に見えるかもしれない。
とそこで、少年の背中に何かがぶつかった。危うくこけそうになるのを堪えて振り返る。
げ、と思わず声が出た。ぶつかられた際に落としてしまった鞄を誰かの足が思いきり踏んでいたのである。
「やっば……すまん! わざとじゃねえんだ!」
“見下ろして”くるのは、これも当然ながら少年。いかにも新品そうな制服と青いネクタイは同じ新入生だと告げている。
が、それにしても大きい。身長は180センチはあるだろう。爽やか好青年を思わせる引き締まった顔立ち。春風に揺れる灰色のツンツン頭に、琥珀色の瞳。そんな彼が両手を合わせて詫びていた。
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