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――――ここはどこだ?
――――自分は何者だ?
目が覚めてから真っ先に浮かんだのは、そんな考えだった。
「全生活史健忘……記憶喪失ってやつか?」
小声でそう呟いてから、俺は少し驚いた。
それは自分が記憶喪失になったから、ではない。
全く知らない土地で、何の記憶も無い状態で、それでも、こんなにも冷静でいられる自分に驚いたのだ。
持ち物から自分が何者か解るかもしれないと思ったが、どうもそうはいかないようだ。
自分が詰襟を着ている事から、学生であるという事は解る。だが、それ以外はなにも解らなかった。俺は何か持っているどころか、服のポケットにさえ何も入れていなかった。
辺り四方八方には自然が広がっている。人工物など微塵も見えやしない。この空間で自分ただ一人が浮いている、という錯覚さえ覚えた。そんな考えを、木々の間を駆けてきた風が吹き飛ばしていく。
「……もしかすると、人って本当に何も解らなくなると、案外冷静なのかもしれないな」
あながち外れでもないと思う。まぁ、データやサンプルが無いから詳しい事は解らないが。
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