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「それにしてもここは何だ……?」
辺りを見ても、目に入るのは全て木、林、森……。
柔らかな日差しと陽気から、季節は春だろうか。
見上げると、小さな鳥が鳴きながら飛んでいくのが見えた。見えなくなってからも、様々な方向から小鳥の囀りが聞こえる。
雲一つない快晴だ。太陽の位置からして、時刻は昼過ぎのようだ。
「どこかの樹海? だとしても、記憶を失う前の俺は何でこんなところにいたんだ?」
樹海に一人でいる。この状況から推察される結論。それは、
「――自殺……?」
だが、この結論はすぐに却下された。樹海で自殺をするなら、何かしらの用意をしてくるだろう。首を吊るためのロープさえ無いのだから、死ぬ為に来たのではないと思う。
「だとすれば、俺はここで何を……?」
俺は思考の海へと潜るが、外部刺激によってその深海から無理矢理引きずり出された。
最初に、音が消えた。先ほどまで聞こえていた鳥の囀りが、ぱたりと聞こえなくなった。
そして、風が消えた。俺の頭を冷やしていた心地よい風が、ぴたりと空間ごと止まった。
最後に、光が消えた。俺の後ろに突如現れた巨大な悪意が、どきりと俺の血を騒がせた。
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