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大学からの帰り道、普段なら通らないあの公園を通ったのは、全くの偶然だった。
近くで秋祭りがあり、人混みを避けて通りたかっただけ。
愛用の画材道具をガチャガチャ鳴らしながら、遠くに聞こえる祭りの喧騒に耳を傾ける。
ずり落ちそうになる眼鏡をクイッと手の甲で上げた時、
賑やかな喧騒とは不釣り合いな物音が聞こえてきた。
「喧嘩?」
正直、揉め事は嫌いだし、腕力には全く自信がない。
歩く足のスピードを早め、通り過ぎようとした時、
月明かりに照らされた君と目が合ってしまった。
「りゅうちゃ~ん、相変わらずキレイだねぇ。随分と色気も増したんじゃねぇ?」
「…触んなっ」
「そんな冷たいコト言わないでさ、久しぶりに相手してよ?昔みたいに」
「てめぇらとはもう関係ないだろッッ!」
「あんまり暴れんなよ。その生意気そうな目つき、たまんねぇな。…またヨくしてやっから、さ」
「やめ、ろッッ」
え?…ええぇぇ!?
自分の見ている光景と耳を疑った。
ただの喧嘩じゃない。
ガラの悪い数人の男に絡まれ、身の貞操が危うくなっているのもまた、男だった。
僕の知らない世界。
危険だと判っていて足を突っ込むバカは、どこにもいないだろ?
申し訳ないけど、揉め事はあまり好きじゃないんだ。
生温い秋風が僕の背中を押した。
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