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「いつもの智世に、戻ったな…。」
そう言うと、浩史は、智世をふわっと抱きしめ直す。
「なんかさぁ、ずっと、よそ行きの顔してるだろ、お前…。
慣れない場所だしさ、仕方ないけど…、二人だけなんだからさぁ、普通の顔でいいよ。」
「…普通の顔って…私、別に、いつもと変わらないつもりなんだけど…。
ねぇ、どこが、いつもと違うの?」
「ああ、違うよ。…めちゃくちゃ、よそ行きだよ。
初めての場所だし、いろいろ緊張してるのは、お互い様だけど…なんか、時々、遠慮してるっていうか…。
普段なら、さっきみたいなこと…あの場で、一刀両断だよ。
智に、非難されても、しかたないことしたんだからさ…。
なのに、帰って来てからのお小言だし…最後は、グダグダだし…やっぱり、いつもと違う…。」
智世が、ギュッと、浩史を抱きしめた。
「…私ね…この街に、来てから、ずっと雲の上にいるみたいに、気持ちが、ふわふわしてるの…。
現実なのに、夢見てるみたいで…。
夜になって、眠って、朝になったら、いつもの部屋で、会社に遅刻するって、おたおた、わたわたしてるんじゃないかって…。
浩史と、結婚したことまで、夢だったんじゃないかって…もうちょっとで、本当に、思いそうになってたよ…。」
「…馬鹿だなぁ…夢な訳あるかよ。心配性だな…、智は。
俺は、ずっと、そばにいるから…安心しろよ。どこにも、いかないからさ。」
「うん…。」
ただ、二人、黙って、抱きしめあっていた。
存在を確認しあうかのように…ずっと…。
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