【第1章】動き出す歯車

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 15年前に始まった戦争は、ソザードにとっても無視出来ないものだった。  北の大陸であるソザードは、その土地柄上、作物の育ち難い環境だ。そのため、ソルディアとの交易によって、国民の食料をまかなっている。  また、年中雪と氷に覆われたソザードは、金属の採掘にも困難を要する。そのため、魔導具の製造に必要な金属を、ファルジニアとの交易によって得ていた。  つまり、ソザードはどちらの国とも、敵対関係になるわけにはいかないのである。  両国は開戦と同時に、ソザードへ同盟の要請を申し入れた。だが、ソザードはどちらの要請にも応えずに、中立の立場をとる事になる。 「とはいえ、それは母上の言い訳。  民や臣下を納得させるための、へ理屈だったのだけどね」  会戦当時の女王は、ティアの母、リゼラードだった。彼女が中立の立場をとったのは、国の事情によるものでは無い。戦火の拡大を、恐れてのことだった。  帝国と共和国の力は、ほぼ互角だ。そのため、15年たった今でも膠着状態が続いている。  王国の参戦は、その均衡を崩壊させるのに、十分な起爆剤となる。つまり、戦火が一気に広まるという事だ。  ソザードは、他国に比べて国力に乏しい国だ。戦火が拡大すれば、遠からず滅びる事になるだろう。  王位を継いだティアも、中立の立場をとり続けた。亡き母の意思を、守り続けるためだ。  にもかかわらず、帝国からの同盟の要請が止む事は無かった。王国内に、帝国との同盟を望む声があるからだ。  そんなことを考えていたティアは、ある男との会話を思い出す。それは、今日の夕方の出来事である。
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