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世界暦1999年第10の月 10日 17時32分
王宮本殿には、女王専用の執務室がある。そこで書類の手続きをしていたティアは、扉を叩く音を聞いた。彼女は作業を一時中断し、扉に顔を向ける。
「はい、誰でしょうか」
「お仕事中失礼します。
カワード様が、ティア様に話があるとのことですが、お通しますか?」
言いながら、一人の少女が部屋に入ってくる。16歳ぐらいの年頃だろう。栗色の長髪に、水色の目をもつ少女だった。
彼女の名前は《フィランディ=ポルト》。中央魔導院での、ティアの後輩にあたる魔導士だ。
彼女は、ティアを実の姉のように慕っている。ティアが王位を継いだ後も、世話係として傍に付いてくれていた。
「そう…分かったわ、通して頂戴」
ティアは、憂鬱な声でフィラに答える。
そんなティアに、フィラは遠慮がちに提案をする。
「……なんでしたら、理由をつけて出直してもらいましょうか?」
彼女は、カワードの用件に心当たりがあったのだ。
「……イヤ、いいわ。
どうせ、聞くはめになるんだし」
ティアは観念したように、その提案を断った。フィラは、そうですね、と苦笑して扉に向き直る。
その背中へ、ティアはいつもの文句を口にする。
「それはそうと、いい加減二人の時ぐらい敬語はやめてよ」
やや不機嫌な声だった。
その文句を聞きながし、
「ふふ、駄目です。
ティア様は女王なのですから、お世話係の私が敬語で話すのは当然です」
意地悪な笑みを残して、フィラは部屋を出ていった。
その後ろ姿を、恨めしげに見送り、
「まあ、最初の頃の『ティアリーゼ様』って呼び方を、しなくなっただけましか」
ティアは、一人になった部屋で小さな呟きを漏らした。
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