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世界暦1999年第10の月 10日 23時40分
王宮の一室から、一人の少女が空を見上げる。眼下の町から漏れた光が、夜空を薄く照らしていた。
「今日は珍しく、雪が降らなかったわね」
空を見上げる少女は、小さな呟き声を洩らす。
18歳ぐらいの少女だった。背中に伸びた髪の色は、鮮やかな金色。空から机に落とした瞳は、透き通った碧眼だった。
読みかけの魔導書や、大量の書類が散らばる、机の上。少女はそこから、一通の封筒を取り上げる。
それは、少女宛の帝国からの親書だった。
少女は丁寧に読み進め――直ぐに、顔を上げてしまう。
「どんな条件であれ、ソザードは中立の立場を崩さないと言っているのに。
それでも、同盟の要請をしてくるなんて、帝国も段々切羽詰まってきているのね」
溜め息混じりに少女は呟く。上げた視線の先には、ある事案に関する報告資料が散らばっていた。
共和国と帝国間での戦争についての資料である。一枚一枚に、事細かく文字と地図が記されている。
それを眺めるこの少女。第16代ソザード女王、《ティアリーゼ=イベスゲート》は物思いに耽る。彼女が治める、王国の未来についてを。
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