起 大事件の発端者

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 少女は舌の上の弾を取り、それを銀色の銃に装填する。カチンと弾倉が閉まる音が空間内に響く。  と、その時、その音をを皮切りにしたかのように、突然男が暴れだした。 「い、嫌だ!ま、まだ死にたくねぇッ!」 「ちょっ、お前、大人しくしろっ!」  もがく男の両腕を慌てて押さえ、動きを封じようとする。だが、左腕に力を込めた瞬間、真っ赤に染まった傷口がズキンと痛んだ。 「……っ、ぅ……!」  堪えきれなかった呻き声が口の端から漏れる。顔を歪め、思わず右手を傷口に当てた瞬間、拘束を逃れた男が脱兎の如く逃げ出した。 「あっ、ちょっ、ま、待てっ!」  すぐに手を伸ばすが、相手の方が数瞬早く逃れる。目の前にいた少女を押し退け、出口の扉へ必死に走っていく。  僕は舌打ちをし、取り逃がした男を追おうと一歩踏み出したが―――それは、『異形』の銃を構える少女によって制された。  不思議に思い、彼女を見ると、少女は別段焦った様子もなく、それどころか草食動物を狙うライオンのような不敵な笑みを浮かべた。 「ここからでも、届きます」  少女が銃口を男の背中に向ける。足をもつれさせつつ出口を目指す男は、その事に全く気付いていない。  扉まであと数メートルという距離になった時―――凄まじい轟音とともに男の身体が大きくぶれた。続けて、一瞬空中で静止し、顔から地面に倒れ込む。 「……ミッションコンプリート」  少女は僕の隣で、少し安堵の色を帯びた溜め息を吐く。手に握られた銃は引き金が引かれているものの、銃口から白煙は立ち上っていない。しかし、彼女が弾倉を開けると、そこに装填されていたはずの銃弾はなく、六発中六発が空砲になっている。  彼女は銃を再びブレザーの内ポケットにしまい、倒れた男の元へ歩み寄っていく。僕も両耳から手を離すと、彼女の後を追う。  光が漏れ込む扉から少し離れた場所に倒れている男は、一見死んでいるように見える。しかし、背中がゆっくりと上下していることから、命は絶たれていないようだ。また、不思議なことに、その背中には銃弾が着弾したような外傷はなく、出血もしていない。全くの無傷である。  全てはあの銃と、この少女の『異常』の効果なのだが、勿論それだけではない。むしろ、『こちら』の方が本命だ。  僕と少女が暫くの間男を見つめていると、地面に突っ伏していた男が唐突に起き上がった。
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