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しかし、ポイントをつけるならばマイナス百点のそのファッションを、ブランドもので着飾っているかのように華やかにしているものを、彼はきちんと持ち合わせていた。
それは―――顔立ちとスタイルである。
男性モデルだと言われてもおかしくないほど、綺麗に整った目鼻立ち。日本人とは思えないほど、すらりと長い脚。一般の成人男性より少しだけついたくらいの程好い筋肉。
一般女性の百人中百人が『イケメン』と評し、一般男性の百人中百人が嫉妬しそうな美青年だった。
だが、彼はそんな自分の姿を見ると、再び重い溜め息を吐き出した。
「…………やだなぁ」
顔に似合わない後ろ向きな言葉を溢し、鏡に背を向けて階段を上り始める。その背中にはどことなく『憂鬱』や『哀愁』といった負のオーラが発せられているように見える。しかし、それに気付く者は勿論誰一人としておらず、男は渋々階段を一歩一歩上がるしかなかった。
やっとのことで階段を上りきり、すぐ右手側の廊下に曲がる。少しの間、健康サンダルの音を鳴らしつつ、歩を進めていき、白衣の男は『33HR』と書かれた表札の掲げられている教室の前で立ち止まった。
深呼吸をし、両手で頬を挟むように叩く。針のような鋭い痛みが頬に走り、思わず目を瞑った。ピリピリと痺れるような感覚が完全に治まった後、ゆっくりと瞼を開ける。
その表情には、先刻の、困惑や嫌悪や悲観といったものは消え去り、代わりに冒頭と同様の凛とした力強いものが存在していた。
教室の引き戸に手をかけると同時に、高校時代から変わらないチャイムの音が響き渡る。それを耳にしっかりと捉えつつ、手に力を込め、扉を左へスライドさせようとした瞬間。
「―――年末(としずえ)先生」
鈴を鳴らしたかのような透明感の溢れる声が聞こえた。
男の手が止まる。瞬間的に、こめかみから頬にかけて奇妙な汗が流れ、床に音もなく落ちた。
彼は声のした方―――ついさっき彼が歩いてきた方向へ、ぎこちなく振り返った。
そこに佇んでいたのは、『絶世の』という最上級の形容詞をつけてもまだ足りないほど美しい容姿の女子生徒だった。
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