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突然だが自己紹介をしよう。
僕の名前は年末吹雪(としずえふぶき)。某県立高校で教鞭を執る、どこにでもいるごく普通の教師だ。
受け持つ教科は化学。白衣を常に着用しているためか、たまに保健医と間違われる。しかし、僕の医療技術は傷口を消毒して絆創膏を貼るくらいまでしか発展していないので、勘違いされると非常に困る。大体、白衣を纏う保健医なんか、絶滅危惧種と認定されてもいいほどしか存在しないのだ。白衣=医療関係者という認識は止めて欲しい。
……何の話をしていたんだっけ。ああ、僕の話か。
しかし、僕について語ることはこのくらいしかない。「自己紹介ではない」と言われるかもしれないが、僕の年齢や住所や血液型や誕生日を明かしたって誰にもメリットはないし、まず僕自身が言いたくない。誰にだってプライバシーというものがある。
無論、職業もプライバシーの一種だが、これを明かしたのには理由がある。それは、僕の『特技』と少し関係するからなのだが―――
「―――先生っ!」
そこで、鈍く光る何かが眼前まで迫っていることに気が付いた。
「うわぁッ!?」
咄嗟に左腕を顔の前に掲げ、防御体勢をとる。それとほぼ同時に、氷のように冷たい何かが腕の中に入って来た。
腕に入り込んだそれは、すぐさま引き抜かれ、赤黒い液体を撒き散らしながら視界から消える。代わりに現れたのは、口の端を吊り上げて下卑た笑いを浮かべる一人の男の姿だった。
「へ、へへっ、ざまぁ見やがれ!」
漫画に登場する下っぱのような台詞を吐き、男が膝をついて腕を押さえる僕を見下ろす。奴の手には、僕のものらしき血がついた小ぶりのナイフがしっかりと握られている。
僕は白衣の袖を真っ赤に染める血液を一瞥し、遅れてきた痛みに顔をしかめた。
「あー……超痛い……」
「ハッ!テメェが油断してるからだろうが!」
僕の呟きを聞きつけ、律儀に言葉を返してくる男。僕はただ呟きが漏れてしまっただけで、決してコイツに言ったわけではないのだが、まあいいだろう。
それはそれで好都合だ。
「あー……もう、なんでこんな目に遭わなきゃなんないんだよ……。僕、何か悪いことしたのかなぁ……。もう、ホントやだ……」
「へっ、残念だったな!テメェはもう死ぬんだよ!ここがお前の墓場だ!」
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