第一章-バウンティハンターとアイアンクロー

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 春の余命ももう長くない。そう感じさせる熱い風が窓から吹きぬけた。一陣の風は教科書やノートを煽り、クラスメイト達の髪の毛を巻き上げて教室に霧散する。  我が水祭高校にも夏の香りが広がり始めていた。  鳥になって空を飛び回りたいくらい気持ちの良い天気だ。暖かな日差しを受けて、鳥になれない俺は翼を広げる代わりに大きく欠伸をついた。  白髪が目立つ年季の入った歴史教師の、偏見たっぷりな授業は退屈で仕方ない。最終的に戦争難民と賞金稼ぎを問題視する初老の先生は、誰も聞いてやしないのに自分は戦後からずっと難民の受け入れは反対だったと熱弁をふるっている。そんな先生を尻目に、隣の席では堂々と携帯電話を開いて後ろを向いたクラスメイトが「駅前にあるネカフェで507番っぽい男がいるのを見たってさ。捕まえにいかね?」と別のクラスメイトに話しかけていた。  507番と言えばコンビニに強盗に入った強面な犯罪者だ。抵抗した店員を揉み合った拍子に殺してしまい、逃げ込んだ民家にいた家族を惨殺するという凶悪極まりない奴だったはず。俺も携帯電話を開いて、情報屋サイトに繋げる。地域事に情報を分けられた掲示板を覗くと、最新情報に隣人が語ったばかりの情報が掲載されていた。情報は文章だけで写真はなく、目撃者は尾行もしていない様子。ただ書き殴られただけの目撃情報。信憑性無し。俺は携帯電話を閉じてもう一度欠伸をついた。  黒板の前で増々熱狂している先生は、賞金稼ぎと言う名のならず者達が起こしたたちの悪い事件を次々に並べていく。さすが教育者だけあって記憶力はいいらしい。何度聞いても覚えきれない事件の名前を聞き流しながら、先生には目と耳がついていないのか遠目に観察してみる。白髪の下にはシミの目立つ耳があり、曇りがかったメガネの奥には目がある。とすればより気の毒だ。
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