序章-アラクノフォビアとコンバットナイフ

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 ふと、脳裏にあらぬ考えが浮かび上がる。  あんな化け物がいるのだから、もしかして魔法も使えるのでは? この世界には実は、魔法と呼ばれるものが存在するのでは? そして、蜘蛛の化け物に遭遇したこの俺こそ、物語で言う選ばれし者だったりするのでは? だったら、もしそうならば。  全力疾走で街中を駆け抜けながら、俺は右手を前に突き出した。  もし魔法があるのなら、もし俺が選ばれし勇者だったりするのなら。  出でよおおおおおおおおおおおおおおおおエクスカリバーああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!  …………………。  ………………………。  ……………………………。  出ないっ!  出るわけなかった!  こんなところだけしっかり日常だった!  実際に口に出して叫ばなくて良かった!  いつも通りの住宅街を、夕日が真っ赤に彩っていく。  左手に握り締めたコンバットナイフの刀身に、街並みと同じように夕日に染まる冴えない顔をした男が映っていた。不景気そうな顔には見覚えがある。まるで恐ろしい化け物でも見たような変な顔をしたその男の名は間違いなく【東雲 海斗〈シノノメ カイト〉】。というか俺だ。  いつも通りの世界で、たった一つのいつも通りではない事件が、俺の周囲で巻き起ころうとしていた。
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