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「カスミ、大丈夫か」
一歩引いた場所から様子を見守るカスミに駆け寄り、足元に転がっていた肘から先しかない手から拳銃を奪い取る。効果があるとは思えないが何も無いよりマシだ。
「カスミ?」
「ふーんだ」
呼んでも応えないカスミが、今にもカマキリに飛び掛かろうと身構える。何故か急に不機嫌になってるが、戦う気らしい。
「どうする気だよ?」
「しーらない」
「あれ? カスミ怒ってる?」
「怒ってませんよー別に、やっと敬称抜きで呼んでくれたと思ったら、もう別の女の子を呼び捨てで呼んでるなんて、カイトの浮気者。ミオだってさ、可愛い名前だねー」
怒ってるじゃん。バリバリ怒ってらっしゃるじゃん。文句たらたらじゃん。
「いや、あれはそういうわけじゃ」
弁解する前に、カスミが俺の体を突き飛ばす。2人の間を、マカの攻撃の衝撃で吹っ飛んだ鉄板が通り抜ける。
肌を撫でた死の気配に全身から血の気が引く。それでも弁解は続く。
「咄嗟に出ただけで、別に他意があったんじゃなくて」
「別にー、気にしてないからいいですけどー」
「きゃははははははは!!」
甲高い笑い声で会話を邪魔して、マカがその巨躯に似合わない俊敏さで動く。右へ左へ振るわれた鎌が、反応出来ない男達の体を紙細工のように易々と切り裂いた。
工場内は既に噎せ返る血の匂いが充満して、血溜まりの無い場所が無いほどだ。
マカがミオを狙って振り下ろした鎌が工具台車に激突し、刺し貫く。余計な飾りのついた鎌を払うと、軽々と吹っ飛んだ工具台車が運悪く男に激突して上半身が爆砕された。
飛び散る肉片を躱して、両手を大きく広げるカスミの傍に駆け寄る。
「それより、もしかして戦う気か?」
「ふぃー当然じゃんか。見過ごせないよ」
「正気かよ」
いや、華奢な女の子にしか見えないカスミは、こう見えてその正体は大蜘蛛だ。同じ魂喰らいのカスミならマカを倒せるのかもしれない。
ほとんど1人で巨大カマキリを相手にしている駆除師の身体能力も異常の一言で、飛び交う鎌を踊るように避けてリボルバーを発砲するミオは、化け物と渡り合っている。
この2人がいればもしかして、勝てる?
「本当に大丈夫なのか? 体調悪そうに見えるけど?」
「顔が濡れて……じゃなかった」
カスミが頬についた血を拭い、舐めとる。
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