第四章-ハッピーエンドとエクスカリバー

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「お腹が空いて力が出なかったりするけどね。あとこの血の匂いがきついかも」  人肉を喰うなら血の匂いなんて嗅ぎ慣れてるだろうに、まあでも確かにこの匂いは精神的にキツいものがあるな。  耐え忍ぶカスミが唇を噛み、一筋に汗をこめかみから流す。 「俺に出来る事は?」 「応援かな? 日々積み重ねた努力も必要だけど、本番で力を発揮するきっかけはたった一人の応援だったりするのだー」  ふざけた声で告げると、頑張れーと冗談を返す前にカスミは硬い床を蹴った。  木製の椅子を足場にして跳ぶと、横薙ぎに振るわれた鎌を宙返りで躱す。一気に懐に入り込んだカスミは、巨躯の割りには細い中肢に蹴りを叩き込む。 「きゃああん、いったーい」  言葉とは裏腹に、効果は認められない。巨躯と比べると細いのは細いが、それでも足の一本一本が人間の倍はある。巨大怪獣に素手で挑むようなものだ。いくらカスミでも生身ではダメージが見込めない。  それでも懐に入られたのは危険と考えたのか、マカは翅を羽ばたかせて狭い工場を低空飛行。機械の上に乗ると上体を下げて隙の少ない体勢を作り出す。  離れても射程範囲はあまりに広く、伸ばした鎌が工場を一振りで蹂躙する。ミオとカスミが呼吸を合わせて跳び、擦れ擦れで躱した鎌に髪の毛を持って行かれながらも無傷で着地する。  だが、避け切れなかった男の脇腹に鎌の先端か突き刺さり、苦鳴を漏らす事しか出来ずに引き寄せられる。屈強な男の体が大顎に噛み千切られて、悲鳴は途絶えた。同時に大勢いた男達が全滅した事実が突き付けられる。  工場にいる人の形をしたものは、死体を含めても俺とカスミとミオしかいない。 「マカ! よくも皆を……」 「このくらいの犠牲はいつものことじゃないですかん、さあ早く邪魔者には消えてもらって2人っきりの食事の時間を楽しみましょうよん」 「死ね! 化け物!」  ミオの声に合わせて、工場の外から犬の遠吠えが聞こえた。  疾走するミオが鎌の嵐を潜り抜け、マカに正面から挑みかかる。  逆三角形の不気味な顔を目掛けて、ミオの拳が振るわれた。  拳は空を切る。  拳がマカの顔を射抜く前に、ミオの襟首を掴んだカスミによって後ろに引き戻された。  寸前までミオがいた場所を、風切り音が吹き抜ける。  バタバタと音を立てて飛ぶのは小さなカマキリだった。
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