第四章-ハッピーエンドとエクスカリバー

21/35
1011人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
 真っ向から向けられたどこか非生物的な殺意に身が竦むが、血溜まりの上を転がってそれを躱す。  全身血塗れとなった俺が立ち上がると、目の前にカマキリの鎌。避け切れない。  反射的に前に出した両腕が引き裂かれる前に、カマキリの体が消えた。  乱入したカスミのしなやかな蹴りがカマキリを上空に吹き飛ばし、翅をばたつかせたカマキリが落下。全身で血を吸って床に這いつくばるカマキリに、すかさずコンバットナイフを突き立てる。 「ああああマカとお姉様の愛の結晶があああん!?」  狂言を口走るマカの細い首に、ミオの飛び蹴りが炸裂する。さすがに効いたのか大きな体がぐらつき、続け様にリボルバーを接射されてマカが身をよじった。  中肢を振るってマカは獲物を捕えようとするが、機械の上を跳んで移動するミオの体は風に乗る羽毛のように避ける。  ミオに気を取られている内に再び顔面を狙って引き金を絞る。広角で光りの無い顔がこちらを向き、一瞬の隙をついてミオの蹴りがまた首筋に喰らい突く。 「いけそう、やるじゃんカイト」  切り裂かれた肩口でも、脹脛でもなく、自分の腹を押さえながらカスミは無理矢理作った歪な笑顔を見せる。顔は汗だくで、白く綺麗だった肌は血塗れだ。 「大丈夫か?」 「ちょっとしんどいけどだいじょーぶ」  そう言って顔に張り付く前髪を払い、カスミは今度こそ満面の笑みを作る。逆に心配になる笑みだが、背後からカマキリの羽音が聞こえて会話は中断。  一直線に俺を狙うカマキリを横に逸れて躱すと、カスミが反撃の蹴りを放つ。 「きゃはははは! 死んじゃえー!」  迎撃を見計らったマカの鎌が地獄絵図を薙いだ。散らばった死体と鉄板を更に分解して、片足を上げるカスミに迫る。  必中の攻撃は、それでもカスミを殺すには至らなかった。片足では有り得ない跳躍力で跳んだカスミが、空中で制止する。まるで重力を失ったかのように浮かぶカスミは、空振りに終わったマカに向かって挑発的な笑みを送った。  どうやってカスミが宙に浮いているのか。目を凝らす事で俺はなんとか理解する。月光に照らされて白くきらめく糸が、天井から吊り下がっていた。角度によっては全く視認出来ない極細の糸が、たった一本でカスミの体を支えていたのだ。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!