第四章-ハッピーエンドとエクスカリバー

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 カスミの不自然な空中での姿勢制御力の仕掛けはその糸だった。マカの隠し玉がカマキリだとすれば、カスミの切り札は糸だと言えるだろう。 「あーもう、いい加減ウザいんですぅ。どうして魂喰らいなのに人間の味方するんですかぁ? しかもその人、貴方を見殺しにしようとしたんですよん?」 「貴方には分かってもらえそうにないかな」 「そーですねん、どうでもいいですしぃ。でも正体を現さないのはどうしてなんですかぁ? どうしてわざわざ不利な人間の姿で戦ってるんですかぁ? なにか困ることでもあるんですかぁ?」  表情などあるはずもない虫の顔が笑った気がした。カマキリになってもマカの生理的嫌悪感を催す笑顔は健在だ。  カスミが蜘蛛にならない理由? 人の姿でも蜘蛛でも同じような気がしてたが、魂喰らいにとっては人間じゃない姿の方が強さを発揮出来るようだ。目の前の巨大カマキリを見れば納得出来る話だな。 「分かりますよん、さっきから我慢してるんですよねぇ? その我慢、いつまで続くか見物ですぅ。きゃははははははははは!あうん!?」  ミオが蹴りを腹部に炸裂させて、哄笑が途切れて会話が中断。仰け反った姿勢から、マカの鎌が大きく振られ、床を抉る一撃を跳んで躱すが、猛スピードで迫る刃が避け切れなかったミオのジャケットを引き裂いた。  勢いが収まらない鎌が壁に突き刺さり、切り傷から月光が漏れる。  脇腹を削られたミオの表情がより一層険しいものになるが、2匹のカマキリは遠慮しない。鋸の刃が上空と背後から迫る。 「後ろは任せて!」  マカの言葉は気掛かりだが、心配する前にカスミが叫び、床に落ちている拳銃目掛けて走る。でも拾って狙いを定めて撃つ暇なんて無いぞ。間に合うわけない。  カスミはそんな面倒な工程を全て無視した。胸から下が無くなった男の手から零れた拳銃に、ストライカーの蹴りが激突。拳銃そのものが弾丸となってカマキリの顔面に衝突した。  仲間の惨劇を見て上空から小さなギロチンとなって迫っていたカマキリが方向転換。ミオはマカの大顎を宙返りで華麗に避けると、撃ち落とされたカマキリの上に着地して間違いなく絶命させる。これでカマキリはあと一匹だ。 「ああん、お姉様ん。マカも踏んで下さいいいいい!」 「安心なさい。言ったでしょ、殺すって」  マカが翅を広げ、埃や砂鉄を巻き上げて飛ぶ。
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