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「カスミ! しっかりしろ!」
「あ……カイト……」
「ああ俺だよ、カイトだよ」
口から血の混じった泡を吹き、出血の止まらない傷口を押さえるカスミが、光りの無い目で俺を見た。綺麗な顔は俺の血なのかカスミの血なのか、汚く赤に染まり台無しだ。
「う……ふあああ」
苦しいのか、カスミが大口を開けて口角から血を垂らす。
「あぁ」
小さな呻き声が続く。
「カイト」
俺を呼ぶ声に、手を伸ばす。
「食べたい」
カスミに触れる前に、手が止まる。
今なんて言った?
食べ……たい?
「カイト食べたいカイト食べたいカイト食べたいああああああ肉、肉、肉! カイトおおおおおあああああああああ」
既に視力を失っているのか、闇雲に伸ばされた手が俺を求めて宙空を彷徨う。いや、カスミが求めているのは俺じゃない。俺の肉だ。
「んふふ、やっと本性が出てきましたねん。やっぱり好きな人を食べたくなるのは、魂喰らい特有の性衝動みたいですぅ」
「カイト食べたいカイト食べたいカイト食べたいカイト食べたいカイト食べたいああああああだめだめだめだめだめ!」
小さな悲鳴を上げるカスミの体が激しく蠕動する。血化粧が施された顔の皮膚が裂け、切れ間から赤い眼球が膨れ出す。複眼が生まれてカスミの顔には8つの無機質な瞳が並んだ。
「だめだめだめだめだめ! 今蜘蛛になったら! 今蜘蛛になったらああああああカイト食べちゃうよおおおお! ああああああだめだめだめだめだめ!」
顔を両手で押さえ、痙攣する体を必死に抑え込む。抵抗を嘲笑うかのように、脇腹から4本の脚が服を突き破って飛び出す。
「きゃはははははは! 蜘蛛の魂喰らいさんだったんですねぇ!」
「くあ! ああああ! ふー! ふー! ふー!」
肺の空気を全て出し切ってしまいそうな深い息を吐き、呼吸に徹するカスミ。その方法が功をなしたのか、変貌のスピードは一気に弱まった。だが、脇腹から覗く4つの脚は徐々に徐々に伸びていく。
そうか。カスミが苦しんでいたのはこれだったのか。
カスミは怪我に苦しんでいたんじゃない。極度の飢餓に襲われていたんだ。だから怪我よりも自分のお腹を押さえていたんだ。
血の匂いを嫌がったのは、食欲を掻き立てられるから、俺の怪我を気にしていたのも同じ理由だろう。
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