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きっと普段から極力少食を突き通していた優しいカスミは、食事を2度も邪魔されてもう限界なんだ。そこに重傷を負い、ショックで蜘蛛に変貌しようとしているんだ。
必死に変身衝動を抑えるカスミは、怪我も気にせず体を仰け反らせて床を転げ回る。
「カイト、どこ、食べたい、違う、愛してる、違う、だめ、食べたい、カイト、肉、カイトカイトカイト」
「んふふ、これが魂喰らいの本性ですよ、カイトさぁん」
人間としての理性と魂喰らいとしての本能の狭間で苦しむカスミ。見下ろす俺の横に逆三角形の顔が近寄ってくる。
「んふふふ、我慢せず食べちゃえばいいのにん。それが究極の愛の形ですよねん?」
狂いに狂い切った恋愛感を語り、マカが鎌を伸ばす。切っ先が男の死体に突き刺さり、カスミの上に被せるように運ばれる。鎌から滴る血がカスミの顔にかかると、貪るように口が開かれた。
「可愛いん、赤ちゃんみたいですねん」
「ああああああ食べたい食べたい食べたい」
「やめろ!」
鎌肢を殴りつけると、衝撃で死体が滑り落ちる。カスミの手が死体に伸びるが、いやらしい鎌が手の届かない位置まで移動させる。
「ああん、マカったらまた良いこと思い付いちゃいましたん」
大顎が耳元まで迫り、どこから発せられてるのか分からない甘ったるい声が鼓膜を撫でる。ろくでもない事が提案されるのは分かり切っていた。
「カイトさぁん、貴方が彼女を殺すんです」
俺がカスミを……殺す?
「彼女を愛してるなら出来ますよねん? きっと彼女は、カイトさんを食べたくないはずですぅ。だからカイトさんが彼女を殺して救ってあげるんですよ。それが彼女の望みなんじゃないですかぁ?」
カスミを……殺す。それがカスミの……望みで……救い。
「それにそうしないとぉ、マカはお姉様がいればカイトさんに興味ないんですけどん、彼女に殺されちゃいますよん。カイトさんが生きたいならん、やっぱり彼女を殺すしかないんですぅ」
生きるために……殺す。
殺されたくないから……殺す。
俺がカスミを……殺す。
「殺すのよ」
今度の声は、甘さの無い目が覚める苦味のある声だった。
「それが魂喰らいの本性よ。魂喰らいは殺すしかないの。殺しなさい、そして、貴方は生きて」
遺言のようなミオの言葉の後押しで、俺の足が一歩進んだ。
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