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陽平が死んだ時は、センセの胸で一晩泣き明かした。
センセが背中を撫でてくれて、
脳ミソが溶けるくらい泣いて、いつの間にか眠ってた。
翌朝、唇や頬やおでこに当たる生暖かい感触に気がついて、
起き抜けの頭でぼーっと考えた。
えーと……何してたんだっけ……?
ぼんやりと目を開けたら、見たことのない無機質な天井と、センセのどアップが目に入った。
ああ、そうか。ライブハウス……陽平、死んじゃった……。
「起きましたか?
お早うございます」
センセは妙に嬉しそうに朝の挨拶をしながら、どアップだった顔を更にアタシに近づけた。
「近いよ顔、センセ。近……えっ!?」
センセの視線がアタシの唇を捉えた後、そのまま瞼が閉じられる所までは見えた。
……近過ぎて、センセの顔が見えない。唇の……この感触は。
もしかしてセンセ、
いやもしかしなくても、
……キス、してる!?
アタシに!?
「………!?」
陽平とは比べ物にならないくらい、熱くて濃厚な大人のキス。
アタシは何が何だかわからずに、目を見開いたまま白黒させていた。
どこか現実味のない唇が名残惜しそうに離れて行った後、センセはアタシを抱き寄せたまま、いきなり、さらに現実離れしたことを口にした。
「園城寺さん、愛しています。
僕と結婚して下さい」
「………はあぁっっ!?」
アタシの目は絶対点になっていたと思うけど、
センセの目は怖いくらいに真剣だった。
「センセ大丈夫!?正気!?」
「失礼な。至極真面目です。こうなった以上、責任は取ります」
「…こうなった?セキニン?」
「まさか覚えていないのですか?
……そう言えば、さっきはキスに応えてくれませんでしたね。昨夜はあんなに積極的だったのに」
「………!?」
驚き過ぎて、声も出せずにポカンとした。
次の瞬間、ようやく事の次第をのみ込んだアタシは、慌てて自分の服装を見回し、パタパタと手触りで確認した。
……着てる。カットソーも、スカートも、ブラジャーも、パンツ、…が、ない。履いてない!?
……ええぇっ!?
「申し訳ありません。
あなたが余りに可愛くて……僕も男ですから。
でも、あなたも気持ち良かったはずです。
……本当に覚えていないのですか?」
泣き過ぎたせいで倍に腫れて、半分しか開かない瞼をパチパチさせて、アタシは絶句するしかなかった。
ウッソ~!!冗談でしょ!?
アタシの記憶、は、どこ~っ!?
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