お母さんの独り言

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混乱するアタシをよそに、センセは意味ありげに耳許で囁いた。 「陽平君の子供を産みたいなら、あなたにとっても僕との結婚は好都合ではありませんか? 僕との間の子だということにすれば、あなたのご両親も産むのを反対しないと思いますよ? 今更他人でもない訳ですし、身体の相性も良かったですし、僕達。 結婚、承諾していただけますね?」 ……と言われましても…。 どう答えればいいの? だって昨日まで、フツーに教師と生徒だったじゃん……。 どうひっくり返ったって、いきなり『愛してます』はおかしいじゃん! 一体ぜんたい、昨夜、センセに何が起こったのさ!? 自分の記憶中枢から何とか昨夜の情報を絞り出そうと格闘しているアタシを乗せて、車を走らせる帰り道、 センセはダメ押しのように言った。 「今からあなたを送って行ったら、僕はその場ですぐにご両親にご挨拶するつもりです。 皆から祝福されて子供を産みたいなら、 あなたは黙って頷いていて下さいね」 センセの言葉は、ぷちパニックでぐるぐるしていたアタシの頭に、一番大切なことを思い出させた。 そうだ。 アタシは絶対に陽平の赤ちゃんを産んで、育てる! そのためなら何でもする。 帰宅する車の中でアタシはずっと考えて、 そして、センセの言葉に素直に従うことに決めた。 冷静に考えたら、いくら意識朦朧としてたって、アタシが陽平以外とエッチなんて、……絶対あり得ない。 センセの嘘だとしか思えない。 センセの本心がどこにあるのか解んなかったけど、とりあえず今はそれは置いとこうと思った。 センセが本気なのは解ったし、それくらいには、センセのこと信用してるしさ。 アタシ。 センセのプロポーズ、利用させて貰うよ。 センセの妻の座、利用させて貰う。 赤ちゃんを無事に産んで育てて行くために、アタシ、今はセンセを利用するよ。 そんなことを考えていたら、いつの間にかセンセは、アタシの両親を説き伏せて、結婚も出産も、カンペキに了解を取り付けていた。 陽平とのことはあんなに反対してた両親を。 センセすごい。 味方でよかった。 でもその時アタシは、 『お嬢さんを必ず幸せにします』と言い切ったセンセの言葉の方に、その日一番の不思議な感動を覚えてた。 いや、そうじゃないな。 センセの言葉が、ただの同情や責任感からじゃないみたいに見えて、 それを嬉しいと思っている自分が、 不思議だったんだ。
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