お母さんの独り言

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一緒に暮らすまでは滅茶苦茶強引だったのに、 それからのセンセは拍子抜けするくらい優しかった。 いつもアタシとアタシのお腹を気遣って、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれて、 産院の検診にも、妊婦教室にも、平然として……いや、むしろ嬉々として、アタシと一緒に通っていた。 「センセ恥ずかしくないの?」 「どうしてです? 嬉しいし、楽しいですよ。 僕に子育てする日が来るなんて、考えたこともありませんでした。 あなたのお陰です。 そうだ、名前を考えたんです、子供の。 男でも女でも『ひなた』ってどうですか? あなたと陽平君の、『陽』を取って、『陽向』。 3月生まれになるんだし、陽溜まりのような、暖かな子になるように。」 でも、アタシに向かって微笑むセンセは、いつもどことなくぎこちない。 アタシは、センセが無理しているような気がして、仕方なかった。 だってセンセは、未だによそよそしい敬語のままで、 アタシのことだって未だに『園城寺さん』って呼んでる。 そして、未だにアタシに触れない。 軽くキスしたり、抱き締めたりはしょっちゅうだけど、アメリカ生まれのセンセにとって、それって挨拶代わりでしょ? それ以上のことをしないのは何で? アタシみたいなお子様じゃ、抱く気になんない? 高校に入学したばっかりなのに妊娠なんかしちゃったバカな教え子なんか、対象外? なら何で、アタシと結婚しようと思ったの? 同情してんの? 担任の責任感?義務感? それとも子供が欲しいの? ……やっぱりそれだけ、なの? センセを利用して、陽平の赤ちゃんを産むと決めたのに。 その通り上手くいってるのに、胸に燻る、この嫌な気持ちは何だろう。 アタシは訳も解らずイライラして、しょっちゅうセンセに当たってた。 センセが変わらずに、優しければ優しいほど、無性に腹が立った。 アタシの様子を見に来てくれる陽平の仲間達にも、センセは妙に懐かれて、アタシは置いてけぼりの気分だった。 もう一回聞いてみようか。 『何でアタシと結婚したの?』って。 でも、センセの答えはきっと決まってる。 『あなたを愛してるからですよ』 ……最大の愛の言葉のハズなのに、何でアタシは、こんなに虚しいんだろう。 センセの本音が解らないまま、夏も秋も、瞬く間に過ぎて行った。
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