お母さんの独り言

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自覚したセンセへの気持ちは、アタシを揺らした。 ごめん、陽平。 大好きな、大好きな陽平。 アタシの半身。 アタシ、陽向と一緒に、これからはセンセの傍で生きて行く。 それだけ、許して? 陽平はもう、アタシの一部だよ。これからもずっと、ずっと一緒だよ。 だってアタシ達、昔から一心同体じゃん? だから。 ちゃんと見ててね? これからここで生きて行くアタシを。 「……陽平、…ごめん」 センセの胸に顔を埋めて、アタシは小さく呟いた。 たった今気づいた自分の気持ちを噛みしめる、 密やかな、決意表明のつもりで。 抱き締められたまま、こみ上げる涙に耐えていたアタシの瞼に、センセはもう一度唇を寄せて、囁いた。 「目を閉じておいで。 僕を陽平君だと思って。」 アタシを抱きかかえるように、そっとベッドに横たえたセンセの声は、さっきとおんなじ台詞なのに今度は何だか切なげで。 どこか遠くへ行ってしまいそうな気がして、アタシは思わず目を開けて、センセの肩を掴んだ。 センセは、見捨てられた子供のような、見たことのない追い詰められた顔をしてた。 さっきの優しいキスが嘘みたいに、荒々しく何度か唇を塞がれて、アタシはセンセが何をしようとしてるのか、悟った。 身体を強張らせたアタシに、センセは一瞬哀しそうな目をして、でもやめようとはしなかった。 少しだけ、怖かった。 センセが怖いんじゃない。 陽平と身体を重ねる時は、楽しくもあったけど、でも大分我慢もしなきゃならなかったから。 3回だけ、だったけど。 でも、僅かな恐怖心よりも、センセが求めてくれた嬉しさの方が大きくて、 アタシはセンセに身を委ねた。 強引だったのは最初のキスだけで、それから後のセンセは、さっき以上に優しかった。 アタシの身体を滑るセンセの手が、指が、唇が、魔法みたいにアタシを全然別の人間に変えていく。 こんなの、知らない。 こんなアタシは知らない。 センセがアタシに、いたわるように、大切そうに触れる。 そのたびアタシの中に沸き上がる何かを、抑えられなくて、もうどこか別の世界に行ってしまいそうで。 アタシはただ、自分のものとも思えないような吐息を、漏らし続けていた。 アタシから声が漏れるたび、センセはアタシの目を覗き込んで、甘いキスをくれるから、 アタシはどんどん深い海に溺れていくみたいだった。
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