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「力抜いて、楽にして?」
囁いたセンセの顔は、なぜか哀しく歪んでて、アタシは急に不安になった。
「口、開けて?
ゆっくり息、吐いて」
センセ。
何でそんな顔するの?
アタシじゃ物足りない?
何でそんなにつらそうなの?
アタシは乱れた息のまま、センセの頬に手を伸ばした。
センセが微笑んで、その手にキスしてくれて、ちょっと安心した。
後はもう何も考えられなくて、センセにすがりついて、身体の奥から押し寄せる、初めての大きなうねりに、ただ呑み込まれていた。
息を弾ませ、涙目でぼーっとしてるアタシを抱き起こして、センセは身体を拭いてパジャマを着せてくれた。
それからまた抱えて横たわらせて、蒲団の上からそっとアタシを撫でた。
「無理させてすみません。……おやすみ」
センセはアタシの目も見ずに力なくそう言って、隣のベッドに戻ろうとした。
――やだ。
アタシは、センセのパジャマの裾を掴んでいた。
何で謝るの?
何でそんな傷ついた顔するの?
傷つけてるのは……アタシなの?
切なくて堪らなかった。
「こっちで一緒に寝て?」
目を見開いたセンセをじっと見つめてたら、センセは苦笑して、アタシの傍に入って来てくれた。
お腹を圧迫しないようにと、アタシを背中から抱き締めて腕枕をするセンセ。
「センセを抱き締めて眠りたかったのに、これじゃ顔も見れないじゃん」
不満顔のアタシに、センセは怪訝な声を返す。
「どうしたんです?今日は。妙に甘えっ子ですね」
「だってさ、せっかくの初夜なのに」
「…!!…げほ、ゴホッ…」
……むせてる。
センセの胸元と喉の振動が、アタシの背中を揺らしてる。
思わず声を立てて笑うと、センセはこれでもか、というほどきつくアタシを抱き締めた。
「センセ、苦しい~」
「あ……すみません」
「センセこそヘンだよ、今日。子供みたい」
「……許してくれますか?」
「?何を?」
「……」
センセは答えなかった。
代わりに、今度は穏やかな抱擁がアタシを包んだ。
センセにずっと苦しい顔をさせていたもの。アレがきっとセンセの答え。
アタシを包むセンセの手に、アタシは自分の手を重ねた。
センセの手は戸惑うようにちょっと離れて、
もう一度アタシの手を探り当てた。
センセ。
『愛しています』が、今は信じられるよ。
背中と手にセンセの温もりを感じながら、アタシは幸せな眠りについた。
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