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「…うーっ!!……はぁ…はぁ…っあ!!…うあーっ!!」
あなたの叫び声が、分娩室に響き渡る。
僕は、立ち会い出産を望んだことを、この期に及んで後悔している。
出産とは、こんなに苦しむものなのか!?
本当に大丈夫なのか!?
このまま死んでしまうんじゃないのか!?
尋常ではないあなたの苦しみ方を、とても見ていられないのに、目を逸らせない。
出産教室で正しい知識を得て来たはずなのに、
あなたも子供も、両方ともを目の前で失うのではないかという恐怖が、僕の脳裏を掠める。
僕はただ、僕に掴まって痛みに耐えるあなたの手を握り締めて、名前を呼ぶことしか出来ない、歳ばかり喰って役に立たない無能で情けない夫だ。
すまない。
僕の身勝手のせいで、あなたの方だけに、いつも無理を強いてきた。解っているんだ。
年甲斐もなく、教師としての節操もなく、親子ほども年下の担任生徒に一方的に惚れて。
恋人が死んだばかりの心の混乱に付け込んで。
選択権など与えず、あなたがただ茫然としているうちに、
お腹に宿る彼の子供ごと、騙すようにして強引に手に入れて。
あなたと子供が、どうしても欲しかった。
生まれて初めて感じた、人を恋うる思いを、抑えられなかった。
ただそれだけのために、『結婚』という形であなたを拘束した。
生まれてくる子供を、人質に取って。
そんな卑怯な僕を、なぜあなたは何も言わず、受け入れてくれているのだろう。
あなたが恋人を忘れないことくらい、解っている。
僕があなたに相応しくないことだって、解っている。
だから、僕を愛さなくていいから。
ただ、あなたの傍にいることを許して欲しい。
でもできるなら、僕の傍にあなたがいて欲しい。
このまま。
生まれて来るこの子と一緒に。
だから頼む……!
頑張れ!
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