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「陽向に会いに行きたい」
暫くの抱擁の後、あなたは僕にせがんだ。
「大丈夫?動けますか?
明日にした方が……」
「大丈夫だよぉ、センセ過保護過ぎ」
「センセでは……」
「解った解ったタケシサン、陽向どこ?連れてって」
今一つ釈然としない呼び方だったけれど、あなたを支えながら新生児室まで歩いた。
「ねえセンセ、『タケちゃん』じゃダメ?」
「却下します」
「んー……んじゃ、『たっちゃん』は?」
「却下」
「じゃあ……『パパ』」
「…………却下」
……多少グラついたが、ここで妥協はできない。
「ほら、右から二番目の、あの子ですよ」
「わー……小っちゃ!
可愛い………陽向~ママだよ~」
あなたはガラスの向こうの赤ん坊に手を振る。
僕はあなたの肩越しに、あなたの凛とした、急に大人びた横顔と、
すやすや眠る赤ん坊とを見ていた。
「……ここにいたんですよね、さっきまで」
あなたの後ろから両腕を回して、あなたのお腹を抱き寄せた僕に、あなたは素直に背中を預け、僕の手を覆うように自分の手を重ねてくれた。
「ここからは出て行っちゃったけど、これからも一緒だよ?
陽向の半分はセンセのだからさ」
「……半分は陽平君のでしょう?
僕は、一緒にいられれば、それで……」
「陽平はさ、アタシと一心同体だから、アタシの分と一緒でいいんだよ。
陽向の半分はセンセにあげる。
お風呂も、オムツも、おっぱいも……は無理か……、とにかくみんなアタシと半分こだからねっ!
サボっちゃダメだよっ!」
あなたは僕を見上げて微笑んだ。
「………」
その時の僕の気持ちを、どう表現したらいいのだろう。
もう、僕の呼び方などどうでも良くなって、ただただ、あなたが愛おしかった。
あなたの僕への気持ちが、例え愛ではなくても、あなたは今確かに、僕を受け止め、必要としてくれている。
僕の中でそれが全てで、それだけで良かった。
「おー陽子、センセ、おめっとさん!!女の子だって?」
廊下の向こうに、陽平君の仲間達の姿が見える。
「陽子~ママの気分はどぉ~?ね、どの子どの子?」
僕達を見つけ、手を振りながら駆け寄って来る。
「あ、来てくれたの?
センセ、ちょ、離して?」
でも、そんなこともどうでも良くて。
友達を見て慌てて僕の腕の中から抜け出ようとするあなたを、僕は更に強く抱き締めた。
「陽子。愛してる」
「「「……は?…!!」」」
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