お父さんの独り言

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最初から、あなたは妙に馴れ馴れしい生徒だった。 放課後に歴史の質問に来ている筈が、いつの間にか関係ない話ばかりして。 「陽平はねー、アタシとは名前も一字違い、誕生日も1日違いで、幼稚園からずっと一緒でさ。 考えてることもお互い読めちゃうし、実は双子じゃないかってくらい、一心同体なんだよっ! これ絶対、運命の恋だと思わない?」 「……解りましたから、質問が無いのなら早く帰りなさい」 「え~あと30分!陽平のバイト終わるの6時だもん」 「担任としては帰宅を勧めます。 それから、言葉遣いが乱れていますよ。正しい日本語が、女性の生活の基本です」 「センセだって『私』て言わないクセに」 「おや、バレていましたか」 「皆知ってるよぉ!センセだけが『僕』て言うの。何で?」 「……男は『僕』、女が『私』だと、ずっとそう思っていたので、どうしても『私』とは言えなくてね。 男女共に自分を『I』と言うアメリカで育って、一人称が男女で違う日本語は、僕の中では聖域なんです」 「センセ、帰国子女なんだ!?……何で日本史なんか教えてんの?」 「米国育ちでも僕は純粋な日本人です。何の不思議もないでしょう? たかだか200年のアメリカ正史に、さして興味は湧きませんしね」 気がついたらいつも、滅多に他人には喋らない自分のことを、喋らされていた。 「質問は以上ですか? 教材室、閉めますよ」 「あ、センセあと一つ! ……あのさ、……アタシ昨日、陽平と初エッチしちゃって」 「……はあっ!? …いや、あなた、あの…」 驚きの余り狼狽して教材室の鍵を取り落とした僕を見て、あなたは笑った。 「何慌ててんの、センセ。 そんでさ、最近『阿修羅』の連中が襲撃か何か企んでて、アタシを巻き込みたくないから別れようとか陽平が言うんだよ。 アタシ陽平に危ないことして欲しくない。 アタシがいれば歯止めになるなら、なるべく一緒にいたい。 でも一緒にいるとさ、今度は……そっちの方の歯止めがさ……。 どうしたらいい?」 存外に切迫した面持ちで、あなたは尋ねた。 「………このノートを差し上げます。今から言うこと、ちゃんとメモして」 僕は結局、保健医よろしく、性教育をする破目に陥っていた。 生きる目的もなく、淀みの中をただ惰性で泳いでいた僕を、あなたはいつも、淀みごと掻き回した。 本当はあの頃から、僕にとってあなたは特別な存在だったのかもしれない。
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