【開かない扉】

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永野に急かされて駆け足でアパートの階段を下って車の前へ。 なんだよ、そんなに早く家に帰りたいのかよー、ってこっそり拗ねてみる。 車に乗り込んだ親父さんがエンジンをかけて窓を下げた。 「じゃあ帰るけど。無理すんじゃねーぞ?」 「はい。本当にありがとうございました、親父さん。」 「いいんだよ。お前はもう俺の二人目の息子みたいなモンなんだから。」 「!」 「だからそんなに畏まるな。何度も言うが俺に敬語はいらん。」 「…」 ああ、返事しなくちゃいけないのに。 ありがとうって、今俺がどれだけ嬉しいかって。笑顔で伝えたいのに。 親父さんの姿が水に溶けていくように滲んで見えない。鼻の奥がツンと痛い。頭が熱くて痛い。 隣で永野がオロオロと慌てている気配がする。 あー、やべ…泣いちまったのか、恥ずかしい。 「ちょ、祐希!どーしたの、お腹痛い?あ、まさか親父のせい!?」 「え、やっぱ俺のせい?」 「おい、なに祐希泣かしてんだ、クソ親父。」 「いや、俺も泣かすつもりは…」 「つもりがなくても泣いてんだろーが!どうしてくれんだコラ!」 永野が俺を守るようにギュッと強く抱きしめて親父さんにキレた。 …どうしよう、本気でキレてる。 声が!口調が!マジで怖いんだけど!! いつもみたいな優しい永野の声じゃない、冷たく低い声に親父さんも震え上がっている(姿は見えないが声が聞こえた)。 本当はすぐに「大丈夫だから」って言って永野を止めないといけないのに… 永野の腕の中はとても暖かくて、どんどん俺の涙腺を緩めてゆく。
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