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俺の名前は「瀬田祐希」、十七才。この春から坂上高校の三年生になる。
訳あって今日から一人暮らしを始めることになった俺は、今まで住んでいたボロアパートを出て、新たな我が家(これまたボロアパート)の前に立っている。
「いやぁ~、やっと新しい住人が決まって良かったよ。」
俺を部屋まで案内してくれた管理人の近藤さんが、ガチャガチャと鍵穴を回す。…一体いつになったら開くのだろうか、この部屋の扉は。
かれこれ五分以上はこうしてドアの前で会話を続けているのだが。
「あのー…部屋の鍵、開かないんですか?」
待たされることは全然苦にはならないのだが、苦心しながら鍵と奮闘し続ける近藤さんが見るに耐えなくて声をかけた。
「スマンなぁ。この部屋、閉める分には問題無いんだが…開けるのに随分苦労するんじゃよ。」
コツがあったはずなのだが―とブツブツ呟き、ポリポリと白髪の頭を掻く近藤さんは、「もう降参」と言わんばかりに部屋の鍵をポイッと俺に投げて寄こした。
「うおっと!」
「ナイスキャーッチ。」
慌ててキャッチした俺に、ニカッと白い歯を見せて親指を立てる。(前歯が一本欠けているのが可愛らしく感じられた。)
さて、これは俺に自分で開けろということなのだろうか。
左手でドアノブを掴み、少し錆びた鉄製の青いドアと向き合うのを近藤さんが妙に緊張した面持ちで見守る。
やっとこの部屋の入居者を見つかったと随分喜んでいたから、扉が開かないと逃げて行ってしまうと心配しているのだろうか?家賃も異常なほどに安かったし。
「大丈夫ですよ。そのうち開く―…」
ガチャッ
「……」
「……」
近藤さんと交代してわずか一回目。
今の音と感触は…
「おぉ!開いたぞ、瀬田クン――って、え?」
ガチャッ
「コラーッ、せっかく開いたのに何故閉める!?」
「まぐれで次開かなかったら大変だからです!」
扉に鍵がかかっていることを確認して、もう一度鍵を左に回すと――ガチャッ。
「…俺、このドアの鍵を開けるの得意みたいです。」
「みたいじゃな。」
問題無く解錠されたことに安堵しつつ、悔しそうな表情をする近藤さんがおかしくて、吹き出してしまいそうになるのを必死に堪えて顔を背けた。
いくら近藤さんが陽気でノリの若い老人でも、高校生のガキに笑われるなんて良い気はしないだろう。失礼極まりない話である。
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