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乱れた息を整えてから、改めて親父さんに向き合って目を合わせる。
「親父さん。今日は本当にありがとうございます。」
そう言って頭を下げると、頭上でフッと笑みを漏らす声が聞こえた。
それと同時に頭へ重圧がかかり、髪をめちゃくちゃに掻き乱した。
「いいってことよ!オラ、さっさとアパートに案内しろ!」
背中を掌でバシバシ叩かれて飛び上がると、そこには満面の笑みを浮かべて運転席へ戻って行く親父さんがいた。
いつまでもジンジンと痛む背中に、優しさを感じて胸が熱くなる。
「大丈夫か?いつも親父が悪いな。」
困ったように笑う永野に「大丈夫だよ」と返す。これもいつものやり取りだ。
永野は、性格や雰囲気が母親似のために、見た目がそっくりな筈の親父さんとは全然違った印象を受ける。
「じゃ、悪いけど助手席に座って道案内してくれ。」
そう言って後ろの荷台に乗りこむ永野。
初めこそ荷台なんかに座らせることに申し訳なさを感じたが、畳まれた俺の布団をクッション代わりにしてもたれ掛かり、春の暖かな日差しを受けて気持ちよさそうに目を細めている永野を見たら、案外後ろも悪くはなさそうな気がしてくる。
大人しく助手席に乗り込んで、「お願いします」と告げると「おう!で、どっちだ?」という、いかにも親父さんらしい返事が返ってきて、自然と頬が緩むのが分かった。
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