【開かない扉】

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 親父さんは大の方向音痴で、それを永野もバッチリ受け継いでいる。 この父子は数々の伝説を持っており、今日とて目的地から徒歩で辿りつける距離に居たことは奇跡に近い。  以前に永野と少々複雑なテーブルの配置をされた飲食店に入った事がある。 複雑と言っても、普通の人間なら迷うことなどあり得ないが、永野はトイレから自分たちの席までの道のりが分からず、近くのテーブルを片っ端から歩いて回り、店内の客に変な目で見られていたことがあった。 親父さんなんかは、「雨が酷いから学校へ迎えに行く」と連絡したはいいが、気付くと高速の上を走っていたらしい。 ちなみに俺や永野の家から学校までの距離は、車でおよそ十五分。 それがどうして高速道路に乗って他県まで行ってしまうのか…もはや伝説としか言いようがない。 そして今回の俺の引っ越し先は、永野家から車で二十五分。 彼ら二人だけで辿りつけるか本気で心配だったが、カーナビという画期的アイテムによって目的地周辺まで無事に辿り着くことができたのだ。(それでも目的地には到着できなかった。)
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