クリスマスと悲劇

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男が早歩きで通りを行く。人通りは少なくないがその男を横目に見る者はいない。いたって普通の青年がただ約束の時間に遅れそうになって早歩きをしているだけなのだ、と考える者もいない。 普通の光景だ。果てしなく普通の。どこまで行っても普通にしかなれず、普通に塗り固められてしまった男。この男の人生が間もなく終わり、始まることを知る者などどこにもいない。 「ごめん、待った?」 約束の場所に着くやいなや、約束の時間に遅れたことを詫び、そこらじゅうに転がっているような言葉を紡ぎ出す。 「大丈夫だよ、大地。」 待たされていたのであろう女性は答える。やや童顔であり茶髪のロングのストレート、優しい雰囲気を醸し出すと同時に、どこか抜けているような印象を与える。 大地とは、今謝罪の言葉を口にした男の名前だ。 「遅刻癖直んねぇなぁ畜生、ごめんな千尋。よし、んじゃまぁ行きやすか。」 大地は頭をかきむしりながら自分の彼女である千尋に再度お詫びの言葉を口にし、千尋の手を取って歩き出した。
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