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「うぅん…やっぱりなんでもないっ!」
千尋は頬を赤らめながら俯いてしまった。
(恥ずかしいな…言えないよ、なんか…)
今まで何度も放ってきた言葉をなぜか千尋はためらってしまった。このシチュエーションのせいだろうか、改めて面と向かってその言葉を使うことに恥ずかしさを感じ、口を閉じてしまった。
それを見て苦笑していた大地は、俯いている千尋の体に近寄りそっと抱き寄せ額にキスをした。大地は千尋の手を握り、ゆっくりとその手に力を込めながら言った。
「この手をずっと離さない。」
「約束だよ?」
潤んだ瞳で見上げながら千尋は言った。
あぁ、絶対だ、と大地は力強く頷き、自分自身に誓いを立てた。今二人がいるのは大きめの通りだが、クリスマスのせいか周りには人通りも少なく車も通らなかった。さらにこの暗さもあり、誰一人として路上で接吻しているカップルがいることに気付くことはなかった。
(車が来たか……ん?)
大地は車が来たのに気付くとすぐに唇を離した。まだかなり距離があるので二人のキスは見られてないだろう。しかしそれと同時に微妙な違和感を覚える。
(ライトが左右に大幅に揺れている…蛇行運転でもしてるのか…?)
大地は去年の自分のようにクリスマスが厄日だと思っているような輩が憂さ晴らしにデンジャラスなドライブをしているだけだと思い、特に気に留めることはなかった。
「どうしたの?考え事してる顔してる。」
「え、いや、何でもない。」
大地は車から視線を外しながら答えた。
(まぁ大丈夫だろう。)
この判断が自分の人生を大きく変えてしまうとは、この時大地は微塵も思うことはなかった。
大きな過ちであろうことも…
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