#00 少しだけ前の話

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灼熱地獄。 一言で表すならば、そんな惨状。 村を覆うのは紅の炎。 平らになってしまった家々が連なって見える元・広場。 肌を刺す熱さは、ここが現実と教えてくれる。 ――現実? ――これが? まだ実感もない。 僕の村は滅ぼされたのだ。 滅ぼ、され……た。 意識が混濁する。 目の前に退却し損ねたのか、あるいは"虐殺"のあと迷い混んできたのか、どちらかはわからないが。 <怪物>がいた。 こいつじゃない。村を滅ぼしたのは、こいつじゃない。 それをわかっていても、 「うわぁぁぁぁああああああ…っ!!」 自分の体を制御できない。 自分が唯一持っていた武器である木刀を構え、その<怪物>に向かっていく。 横薙ぎ。しかしその攻撃は木刀のリーチと相手の素早さによってかわされる。 ここで僕がもう少しだけ冷静であったなら、その<怪物>の名前が《スピディア》と呼ばれるスピード自慢の鹿型であることを思い出せたのだろうけれど、そんな余裕があるはずなかった。 かわされた剣の軌道を無理矢理引き戻す。 その間を縫うようにして<怪物>が突進してくる。 冷静な判断を下せない。 その思考低下が命取りとなることを、知っていたはずなのに。 突進は僕の脇腹に突き刺さった。 痛い。肋(あばら)を幾つかやられたかもしれない。 目の前が、暗くなる……。 ………………。 …………。 ……。
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