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灼熱地獄。
一言で表すならば、そんな惨状。
村を覆うのは紅の炎。
平らになってしまった家々が連なって見える元・広場。
肌を刺す熱さは、ここが現実と教えてくれる。
――現実?
――これが?
まだ実感もない。
僕の村は滅ぼされたのだ。
滅ぼ、され……た。
意識が混濁する。
目の前に退却し損ねたのか、あるいは"虐殺"のあと迷い混んできたのか、どちらかはわからないが。
<怪物>がいた。
こいつじゃない。村を滅ぼしたのは、こいつじゃない。
それをわかっていても、
「うわぁぁぁぁああああああ…っ!!」
自分の体を制御できない。
自分が唯一持っていた武器である木刀を構え、その<怪物>に向かっていく。
横薙ぎ。しかしその攻撃は木刀のリーチと相手の素早さによってかわされる。
ここで僕がもう少しだけ冷静であったなら、その<怪物>の名前が《スピディア》と呼ばれるスピード自慢の鹿型であることを思い出せたのだろうけれど、そんな余裕があるはずなかった。
かわされた剣の軌道を無理矢理引き戻す。
その間を縫うようにして<怪物>が突進してくる。
冷静な判断を下せない。
その思考低下が命取りとなることを、知っていたはずなのに。
突進は僕の脇腹に突き刺さった。
痛い。肋(あばら)を幾つかやられたかもしれない。
目の前が、暗くなる……。
………………。
…………。
……。
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