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狼は男で、銀色の髪をしている。
世界に一匹だけの狼は今、歩いて歩いて草原を踏みしめていた。
人間に支配された世界。
動物は少しずつ減っていって緑溢れる世界は早いペースで鈍色に変わっていく。
そんな世界での草原は既に珍しい。
行くべき世界はまだ暫く青緑で澄んでいたが、そのすぐ向こうに見える場所はまた鈍色に溢れている。
狼は、そこを目指していた。
緑は動物の、鈍色は人間の色。
今の世界はその二色。
個人の色ではなく、ただひたすらにその二色だ。
狼は髪と同じ色の瞳で草原のとある足跡を辿る。
世界はどこまでも二色でしかありえない。
その世界の中のさらに中、狼の世界もまた二色。
ただ腹を空かせた狼の目は飢えていて、食べられるものか食べられないものかを見分けるためだけに今の狼の神経は使われている。
見つけたのは黒い耳。
それは見間違えるはずもない兎の垂れた耳だった。
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