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「…おい、兎」
「…」
「………答えないと今すぐ噛み殺すぞ」
「何でしょうかね、今は珍しい狼さん」
隠れた黒兎の耳がピクリと揺れて、狼は痺れを切らした勢いのまま脅してみると律儀そうな声が聞こえた。
狼が我慢できているうちに答えたほうがいいと兎も判断したのだろう。
意外と賢明な思考の持ち主らしい。
「腹が減った」
「はぁ…」
だからどうしろと。そう言いたそうな兎の声はあからさまに嫌がっている。
狼は今にも逃げ出しそうな兎の両耳を纏めて鷲掴む。
眉を潜めた狼がいらいらした声で兎を力任せに引き寄せた。
「お前の家族友達…なんでもいい。つれてこい。じゃなきゃお前を食う」
「…よくもまあそんな非人道的なことを…しかも初対面の相手に…」
「食われたいのか」
「まさかとんでもないっ」
即答した兎は微妙な顔をして目を伏せた。その伏せ方が本当に微妙で、狼は無言の圧力を加えて先を促していた。
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