一、狼

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一、狼

気付いたら傷つけてばかりいた。 人間を殺して、言葉を忘れて狂ったように、他の動物を食った。 狼は自分が傷つかないために他人を傷つけた。 世界は自分と自分じゃないもので完全に分けられていた。 狼に名前はなく、総称で呼ばれていたけれど別に気にはならなかった。 狼にとって名前なんて些細なもので、二の次にしていいくらい特別な感情があった。 今日もまた狼は自分のために誰かを傷つける。 一人で多数を傷つける。 一人で狼は世界を見る。 いつまでも一人だ。 そう思っている間に、狼は本当に一人になった。 そう思っていた。
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