8月23日

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――――――――――――― 「………すげぇ、怖い」 アップを終えて、他のメンバーが沢口のノックを受けている最中、恭一は長谷川と投げ込みをしていた。大会で唯一ベンチメンバーが規定の十八人に届かないチームだ。ノックもボールをキャッチャーが渡し、ファーストが全てを終えた後、キャッチャーにわざわざ投げ返してからノックを再開する、手間のかかるものだった。 そもそも監督からしてベンチでかち割りを舐めている。田舎の県立校の悲しさで実質的監督は沢口だった。最もそれは世間では自立心を育てる教育として良いように取られている。 この間まで恭一の事に誰も興味を示さなかった。無論小さなエースは話題になったが、その会話の最後には「次は負けるだろう」という言葉がついた。知らず知らずのうちに相手は隙を見せ、恭一は自分のピッチングを崩さずに投げるだけで勝手に自滅してくれた。 今日の相手である光陵学園にはまるでそれがなかった。青のピンストライプが入ったユニフォームを着込んだ一塁側ベンチはこちらを睨みつけて、馬鹿にするような視線は一つもない。
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