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きっかけ
―某ビル―
「では、まず書き出しから説明します。手紙には種類があります。普通の手紙、改まった手紙、急用の手紙、返信の手紙…その手紙によって頭語は違います、普通の手紙の場合は『拝啓』『啓白』以外にも『一筆申し上げます』などの言葉を用います。改まった手紙の場合は『謹啓』『謹んで申し上げます』このように頭語には注意して…」
駅にほど近いビルの一室で女性の声が聞こえる。
中には40名あまりの老若男女問わず様々な人がその話に耳をかたむけている。
サイバーテロから1ヶ月。メールは復活したものの、サーバー廃止法案も囁かれ、街では空前の『手紙ブーム』がやってきた。
これは手紙を知らない若者を中心に流行りはじめたものの、若者に限らず、昔手紙を書いた思い出のある年配にも人気で、あっという間に浸透していった。
「ねぇ真由、手紙書くのに相手の住所書くって知ってた?」
「そもそも相手の住所さえ知らないんだけど」
女子高生らしき女の子が、隣に座ってる子に話しかけた。
「私さ、メールできなくなった時手紙書いたんだよね」
「マジ!美保手紙書けるの?相手から返事きた?」
「や、アドレスが住所って知らなくてメアド書いたの」
「…美保バカだ~」
「だってお父さんがアドレス書いてって言ってたんだもん!」
周りでクスクスと笑いがおきる。
「如月さん、もう少し小さな声で話してもらえる?」
講師に注意され、美保は慌てて机に目を戻し、真新しい便箋に一生懸命手紙を書きはじめた。
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